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東京地方裁判所 昭和31年(ワ)2418号 判決

原告 敷島工業株式会社

被告 株式会社上田商店

主文

原告に対し被告は、四十一万七千五十八円及びこれに対する昭和三十一年五月二日から支払いずみまで、年六分の割合による金員を支払うべし。

訴訟費用は、被告の負担とする。

この判決は第一項にかぎり、仮りに執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は、主文と同旨の判決並びに仮執行の宣言を求め、次のとおり述べた。

原告は毛糸製セーター類の製造販売を業とし、被告は毛糸セーター類の卸売を業とする。

原告は被告に対し、別紙目録記載のとおり、各売渡日に、セーターを、数量、代金をもつて売渡した。よつてこの代金合計四十一万七千五十八円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和三十一年五月二日から、右支払いずみまで、商事法定利率年六分の割合による損害金の支払いを求める。

原告は、訴却下の申立の理由にかいてある事実は、そのとおりであるが、同裁判所は、原告から申立てた口頭弁論期日変更申請を却下し、証人調べもせず、昭和三十二年二月十二日原告訴敗の判決を言渡したから、原告は同月二日控訴を提起した。」と述べ、「被告の抗弁は否認する。」と述べた。

被告訴訟代理人は、本案前の申立てとして、「原告の訴を却下する。」との裁判を求め、右申立の理由として、「被告は原告を相手方として大阪地方裁判所に対し、売掛残代金百三十三万円の支払い請求の訴訟を提起し、同裁判所昭和三十一年(ワ)第三五五号事件として審理されている。原告は右訴訟において、原告が本件訴訟において被告に請求している売掛代金四十一万七千五十八円の債権をもつて相殺すると主張した。従つて、原告の本件訴訟における請求は、大阪地方裁判所において判断さるべきである。すなわち、原告の提起した本件訴訟は、民事訴訟法第二百三十一条の規定に反するから、不適法として却下さるべきである。」と述べた。

被告訴訟代理人は、本案につき、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、「原告と被告の職業が、原告主張のとおりであることは認める。原被告間に、原告主張のとおりの売買があり、被告が原告に対し四十一万七千五十八円の債務を負担した事実は認める。」と述べ、抗弁として、「被告が原告に対する右債務は、昭和三十年十二月十五日原告会社の代理人であり、かつ社員である山口某は、被告会社において、被告に対し免除の意思表示をしたから、同日原告の債権は消滅した。従つて原告の請求は理由がない。」と述べた。

理由

被告の、訴却下の申立について

被告が原告を相手方として、大阪地方裁判所に対し、売掛代金残百三十三万円の支払い請求の訴訟を提起し、同裁判所昭和三十一年(ワ)第三五五号事件として審理され、右訴訟において原告が被告に対し、本件訴訟において請求する四十一万七千五十八円の債権をもつて、相殺を主張した事実は、原告の争わないところであり、右相殺の抗弁は、本件訴訟が昭和三十一年四月四日提起された(このことは記録によつて明らかである)以前になされたものであることは、弁論の全趣旨によつて認められる。しかしながら、民事訴訟法第二百三十一条にいう訴訟係属とは、特定当事者間で訴へ又は反訴によつて審判を申立てた特定の請求に限られ、請求以外の攻撃防禦方法として主張又は抗弁としての権利関係は、含まれないと解するから、原告が大阪地方裁判所において相殺を主張し、その後に、同一債権の支払いを求めるため、本件訴訟を提起しても、重復起訴の禁止規定には反しない。従つて被告の申立は、理由がないから却下する。

本案訴訟について

原告主張の事実は、すべて被告の認めるところである。しかしながら被告の抗弁については、これを認める何らの証拠がないから、抗弁は理由がない。

そうすると、被告は原告に対し四十一万七千五十八円及びこれに対する、訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな、昭和三十一年五月二日から、右支払いずみまで、商事法定利率年六分の割合による損害金を支払う義務がある。

原告の請求を正当と認め、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八十九条、仮執行の宣言につき同法第百九十六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 石橋三二)

表〈省略〉

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